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Kindleで面白いKDP本(≒個人出版本)どうやって見つけんのっていう話。

カテゴリ:電子書籍  投稿日:2013/07/28

KDPって、結局読者にメリットあったの?

2012年の末にKindleが日本に上陸して、Amazon.jpでもKindle Storeが開いて、個人でもKindle Storeに自分の作品を並べることができるKindle Direct Publishing(以下KDP)が始まりました。それから今日まで色んな人がKDPで本を出版しています。

誰でも出版できるようになれば、当然玉石混淆のカオスになる、というのは前々から指摘されて来た話です。その辺りは同人の世界とさほど変わらず、参加する人が増えれば増えるほどカオスになるのは当たり前の現象ですね。

それまでは出版されている本には必ず担当の編集者がいたので、本の価値の担保は、ある程度なされていました。ところがKDP本にはそれがない。下手すれば「てにをは」すら怪しい本が平然と売られている可能性さえあるわけで、そんなもんに手を出すのは、読者っていうより、物好きだけですよ、ていうのが実情です。

それでも、KDPに期待している人はいる

たとえば、きんどるどうでしょうさんは、早いうちからKDPの作家やその著書の紹介を積極的になさってます。無料キャンペーンの告知や、気になる新刊のピックアップなど、寝る間も惜しんで(いや本当に大変だと思います)新しいKDP本、KDP作家の発掘に力を入れていらっしゃるのは、恐らく、そこに新しいビジネスチャンスがあると感じているからなのだと思います。実際、何年も前からKindle Storeで個人出版ができた米国では、個人出版からの成功者というのは、ちらほらいるそうです。日本でも、Gene Mapperが大成功を収めたのは記憶に新しいところです。これから、ぼちぼちそういった成功者が、規模の大小はあれども、増えてくるでしょう。

いい本に巡り会えさえすれば、読者にだってメリットはある(超安い)

KDP本は、ほとんどの場合99円か、250円で値段が付けられています。これは著者の思考とKDPの仕組みが生み出した、値付けのセオリーがそうさせています。
著者は、自分が無名であるということや、品質に対する自信の弱さから、値段で勝負しようとします。同じ値段だったら、プロで有名な人の本を買うはずだ、という予測です(当たり前ですね)。データ制作以外のコストはかからないのだから、できるだけ安くして、多くの人に手に取ってもらおうと考える。必然的に、日本円で設定できる最安値である99円に集中することになります。
ところで、KDPには「KDPセレクト」という仕組みがあります。これは、当該書籍をKindle専売にすることで、著者にとってお得なプランを提供しますよ、というものです。KDPセレクトに登録するメリットの一つに、「250円以上の書籍では、70%の印税率を設定できる」というものがあります。249円までは印税率35%にしかできないが、250円から70%にできるとなれば、250円に価格が集中するのは必然です。一冊売れれば175円もの印税が入ってくるわけですから、Kindleセレクトに登録していて、より高い印税率を求める人は250円で落ち着きます。70%の印税率を設定できる中で最安値だからです。
【補足と訂正(2013/8/4)】
自分で読み返していたら、プロの人やセミプロの人もKDPで出しているという点が意識から完全に欠落していたことに気づいたので、補足と訂正をいたします。(ここで言いたいのは「個人出版のほとんどは、出版社を通して出版される作品よりも安く売られている」という事実であって、Kindle本を購入する読者にとってその理由は重要ではないと思いますが)

KDP作品の価格は、多くの場合商業出版のKindle本よりも安く売られています。考えられる理由は、次のようなものです。
なお、前提として、個人出版作品が商業出版作品と同じショップに並んだときに競争力を持たせようと作家側が考えているものとします。

1)知名度、広告力が弱い
個人出版では出版社のような広告を打つことができません。また多くのKDP作家はアマチュアであるため、名前で興味を持ってもらうことができません。

2)校正や校閲等、商業出版で行われているチェックを十分にすることができない
作家個人の努力次第という部分はありますが、個人や仲間内での校正・校閲には限界があります(世の中には校閲専門の会社も存在しているぐらいですから、片手間にできる作業ではありません)

3)出版にかかるコストが極めて低い
紙代もインキ代も印刷代も輸送費も人件費もかからないので、本のデータが出来上がった後にかかるコストはほぼゼロです(宣伝費を使えば別ですが)。

4)印税率が高い
KDPの場合、通常35%の印税率です。また、KDPセレクトに登録した場合は250円以上の書籍に関しては印税率70%を設定できます。商業出版の印税率が10%程度という話を聞きますので、それに比べたら遥かに高い印税率になります。
(仮に250円で印税率70%の場合、一冊あたり175円の印税になります。商業出版の10%の印税率で一冊あたりその印税を手に入れるには1750円の本を売らなければならないことを考えれば、信じられないほどの高い印税率であることがわかります)

1) 2)は「読者に対して、商業出版よりも高いか、それと同等の質であると信じさせることが難しい理由」です(実際の質がどうあれ)。それは即ち「商業出版と同等の価格では読者は買ってくれないだろうと作家が考える理由」でもあります。
3) 4)は「価格を安くすることができる理由」です。仮に無料配布をしたとしても、そのことを理由に作家側の懐が寒くなることはありません。

上記の理由から、個人出版作品を商業出版作品よりも安く提供しようと考えるKDP作家が多いものと考えられます。
※全てのKDP作家がそうであるというわけではありません。例えばコミティア等で既に紙版で読者に提供された作品の場合、値段を紙版に合わせる方もいらっしゃるようですし、人によって価格に対する考えは様々ですので、その作家が妥当だと思う価格で提供されています。ただ、実際に商業出版作品より安い価格で提供されている作品が多いので、概ね上記の様なことを勘案して価格設定をされているものと思います。

そういうことで、KDPの本は99円か250円であることが多いです。
(最近KDP本を調べていたら、150円とか300円辺りの本も結構多いことに気がつきました)

——(補足と訂正ここまで)——

いずれにしても、一般の書籍に比べたら遥かに安い。こんな安い価格で、面白い本に出会えたら最高だよね、っていうことなんですよ。

ということで、KDP作品をある程度選別してもらおう

外れを掴まないように、面白い作品だけ紹介しているところがあればいいんです。
そんなわけで、既にKDP作品をレビューするサイトはできています。

つんどく速報さん
個人出版作品の中で、面白かったものだけをピックアップして紹介なさっています。

燃えよ個人出版!さん
こちらも、個人出版作品の中で面白かった作品を紹介なさっています。

どちらも実際に読んで面白かったものを紹介しているサイトです。この辺りを参考にすると、外れを掴む確率はグンと下がります。

もうひとつ、面白い動きとして「KDP作品のプレビューサイト」というコンセプトで運営されているサイトがあります。

きんぷれ!さん
こちらも、個人出版作品の中で面白いものだけを紹介するサイトなのですが、紹介の仕方がレビューサイトとは異なっています。紹介文を書くのではなくて、「プレビュー版を読んでもらう」という方式を取っています。実際の中身が読めるので、「立ち読みサイト」というのが現状に近い表現でしょう。これは管理人さんが「良質なコンテンツは、中身を見せれば自然に売れる」という方針で運営なさっているためです。実際にレビューサイトとどちらがより効果的なのかは分かりませんが、面白い試みだと思います。中を読んでから買えるので、ミスマッチも少ないでしょう。自作品を自由に扱える個人出版だからこそできる試みでもあり、今後に期待しています。

今後に期待しているのはもう一つ理由があって、管理人のこくぼさんに声を掛けていただいて、僕も作品掲載させてもらってるんですよ。「魔法中年っ!」で。あと、「いとしの小さな殺人鬼」も、KDPセレクトの90日の縛り期間が終了したころに掲載していただける感じになったので、まあ、なんていうんですかね。ステマっていうんですかね。そんな感じですよ。

しかし、レビューサイトにしろプレビューサイトにしろ、誰かが実際に読んで面白いと思った作品をピックアップしていく、という動きは今後増えていって、あるところで飽和し、固定化していくんだろうと思います。

現状だと、ジャンル分けが弱いというか、「うちはラノベだけ紹介するんだ!」とか、「眠ってる純文学を掘り起こすんだ!」といった、もっともっとジャンルを絞って紹介していくサイトができると、読者が求める作品が見つけやすくなるんじゃないかなあと思うので、審美眼に自信のある方、誰かやってください。



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“Kindleで面白いKDP本(≒個人出版本)どうやって見つけんのっていう話。” への5件のフィードバック

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  4. 青木ゆかり より:

    魔法中年、今読んでます。
     私も初めてKDPで本を出しました。
     「カメのみちくさ」という本です。ぜひ読んでみてください。

    • 皮算積人 より:

      拙作をお読みいただきありがとうございます。
      お互い個人出版を楽しみましょう!

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