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「いけ好かない、あまりにいけ好かない」を読んだ

カテゴリ:感想文 , 雑談  投稿日:2015/11/01

 表題のとおり、月狂四郎さんの「いけ好かない、あまりにいけ好かない」を読みました。いろんなトピックに噛み付いている本書だけど、月狂さんの感性は概ね良識的であって、それほど毒のあるものではないと思います。割と好きです。

 さて、「個人作家の悪口シリーズ」とご本人が称するところを読んでいて思うところがあったので、本書とは関係ないことも含めて、思考を垂れ流します。

 「個人出版を盛り上げていこう」という意見について。
 これは月狂さんに限らず色んな方が仰っていて、それを志向することを批難するつもりはないのですが、おそらくこれの実現は無理で、だから僕はそれを志向しません。
 「◯◯が盛り上がっている」と言うとき、それは「◯◯であることを理由に人々から選択される」という状況を指しています。だから「個人作家同士が協力しあい、個人出版を盛り上げる」という行為の目的は、「個人出版『だから』読まれる」という状況を作ることにあります。例えば艦これオンリーイベントやとうらぶオンリーイベントは大変な盛り上がりを見せているらしいけれど、これらのイベントは艦これやとうらぶを嗜好する人たちがいるから盛り上がるのであって、個人出版という指向のはっきりしない括りで同様の状況が発生するとはとても思えません。個人出版の中のある特定のジャンルが盛り上がることはあっても、「個人出版」が盛り上がるというのは想像できません。

 ところで、この「個人出版を盛り上げる」という言葉、ないしそれに類する発言には、上記とは全く違うところを目指す立場も含まれているように僕には思えます。というか、こちらの意味で使っている人の方が多いんじゃないかと感じてるんですが、それは「個人出版だけど読者に選ばれるようになろう」と考える立場です。個人出版全体の盛り上がりはさておいて、個人出版でも商業出版と並んで遜色のない訴求力を持った本を作ろうという方向性は、健全というか、現実的というか、理解できます。ただ、それは「個人出版を盛り上げる」ではないよね、と思います。

 僕自身は、すでに誰でも作品を発表できる場が存在しているということを以て善しとし、そこから先は各々の問題であろうと思っているので、「みんなで協力しあって云々」ということについては、いまいちピンとこないものがあります。一番怖いのは、「個人出版」という枠でコミュニティができつつあることだとさえ思っていて、それは本を書く側、出す側のコミュニティでしか、おそらくありません。そこでなにをやっても、ほとんど読者に届かないように思うんです。近しい人同士、好きな人同士、実力を認め合った者同士……が協力して何かをするというのは面白いと思いますし、おそらくそこを志している人は結構いらっしゃるのでしょうけれど、それはコミュニティどうこうとは別の理由で動いているからこそ、だろうと。

 而して、このブログ記事もせいぜい個人出版のコミュニティでのみ読まれるであろう文章になりました。読者と向き合うというのは、どういうことなのでしょうね。むつかしいですね。


2015年11月1日 追記

 拙い文章ゆえに何を指しているのかわかりにくかったようなので、補足します。

 上記文章中に出てくる「コミュニティ」という言葉は、個人出版をする人全員が含まれるコミュニティのことを指しています。
 コミュニティの成立が怖い、と書いたのは、実際にはコミュニティ全体としての善を決めることを求めることを怖がっています。このエントリは、基本的には表題にある月狂四郎さんの「いけ好かない、あまりにいけ好かない」の中の文章を受けて書いたものであり、エントリ内のコミュニティ云々についての僕の感情は、特に本書に含まれる「レビュー待ちのマグロ作家に噛みつく」の章に類する志向に相対したときのものです。
 もう少し突っ込んで書くと、「こういうレビューが良いものである」とか、「個人作家同士は積極的に互いの作品を読み合い、レビューをすべきである」といった倫理観を共有しようという志向が怖いです。僕は、面白そうだと感じたら読みますし、書きたいと思ったらレビューを書きます(一応このエントリもレビューの一つではありますし)。自分なりにそれについての倫理観もなくはないのですが、「低評価レビューはつけるべきでない」という倫理観を共有しようとする人を見ると、なんとも窮屈だなあ、と感じます。また、よしんばそれが共有できたとしても、それは閉じた世界になりそうだなあ、とも。
 要するに、「クラス全員で一つの目標に向かって頑張ろう!」みたいなノリがとても苦手なんですよ、というだけの話です。

※ちなみに、永元さんの目指している方向性については、なんら否定するものでないというか、むしろ支持する立場です。志向そのものにも共感しますが、なにより「同意しない人を批難する」という態度でないところに安心感を覚えます。

※あと、こんな記事を書いておいてなんですが、危機感を持ってるというわけでは全然ありません。他人がどうあれ、僕が自分のスタンスを維持することは僕自身の問題なので、そこが侵されるという心配もしていません。



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“「いけ好かない、あまりにいけ好かない」を読んだ” への4件のフィードバック

  1. 月狂四郎 より:

    お世話になっております。
    個人作家の月狂四郎でございます。

    拙著に丁寧な感想をいただきありがとうございます。
    本著につきましては(キャラ設定の関係もあり)かなり極端な語り口になっていますが、私自身はどんな意見も等しく敬意を払われるべきであると認識しています。

    あんまり地雷になりそうなトピックについては避けたいところですが(笑)、要は「もうちょっと自発的に動かないと個人作家なんて見向きもされませんよ」というニュアンスを伝えたかった部分があります。ですが、どうにもこれを穏やかな語り口で言っても無視されてしまう部分があります。そうなると必然的に癪に障るキャラでいくしかないんですね。

    ですので、多少嫌われてもいいからもっと個人作家の自発的な心構えというか、誰かに依存しない精神的支柱を築いて欲しいなという思いもありました。

    とまあつらつらと自著の言い訳を垂れ流しましたが、拙著を読んでいただいた上にレビューまでしていただいた事につきましては心より感謝しています。
    ありがとうございました。

    • 皮算積人 より:

      こちらこそお世話になっております。
      皮算積人です。

      月狂さんの敢えて煽っていく姿勢は、実は割と好きです。そういった態度に刺激されて、本エントリを書いたという面もあります。
      この手のトピックについては、「書くのも野暮かな……」と思って書かないでいることが多いのですが、創作に対する姿勢を、他人が語っているのを読むのも、自分で語るのも、楽しいものだと感じます。
      月狂さんと僕とは、色々なところで方向性が異なるのだとは思いますが、それでも月狂さんの創作についての想いを読むのは、それ自体がとても楽しかったです。

  2. 永元千尋 より:

    追記拝見しました。こちらにもいくつか誤解があったようで、その点についてのお詫びかたがた、お礼を申し上げます。

    ……と、堅苦しいところはひとず置きつつ。

    コミュニティへの危惧というのは、おそらく、一般的に言うところの「同調圧力」や「サロン化」みたいなものへの危惧なのかなと受け取りました。はい、僕もこういうのは大変苦手です^^;
    小説(というか娯楽全般)については基本的に嗜好品だと思いますので、自分の気が向かない時に無理にそれを手にしなければならない、というのは苦痛であると感じます。皮算さんが煙草やお酒を嗜まれるかどうかはわかりませんが、いつも好きで買ってるものを「こっちのがいいよ! こっちにしなよ! コレがいけるならアレもやるべき! それをしないなんてお前失格!」みたいに言われるのはまァ、普通に嫌なもんですよねw
    筆耕という面から農家で喩えるなら、トマト農家がみんなトマト好きってわけじゃないし、むしろ嫌いだったりしますよね(いやあ俺は最高にトマト好きだね! 三食これでもいいね! って方もいらっしゃいますがw)
    自分で作ってるっていうのは、そういうもんだろうなと。
    ちなみに、ろすさんや電書ちゃんも、同調圧力やサロン的なものは嫌いな方であろうと僕は認識しています。

    奇しくも、最近ちょっとやりとりのあった方が「(めじゃーに対する)インディーズ」と「(独立系という意味での)インディ」を使い分けていらっしゃいましたが、個人出版と一言で言ってもそのくらい多様なもので、その多様さが可能性なのだろうと思います。
    それを均して潰していくのは避けるべきですよね。

    • 皮算積人 より:

      よく言われることではありますが、作家なんて気難しい生き物で、みんなで足並み揃えてというのは、まあ難しいのかと思います。ましてや個人出版となると、そもそもの活動姿勢がてんでばらばらですからね。

      とはいえ、付かず離れず、緩いつながりを持っている、というのは楽しいですね。直接には自分の活動への影響がなくても、こうやってお話しする機会をもてますし、自分の知らない世界を垣間見たりすることもあって、なんとなくお互い存在を知っている、ぐらいでも十分に意義あるつながりになっている気がします。

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