Grayscale Lovers

男、甘党、ぬいぐるみ萌え族。

カテゴリ:雑談  投稿日:2015/06/26

 実は、ぬいぐるみを捨てた事がある。

 幼稚園を卒園するぐらいの頃のことだったと思う。ぬいぐるみと猫が大好きだった僕は、決意を以てぬいぐるみを捨てた。「これじゃいけない」と感じていたのだ。たくさんのぬいぐるみの詰まった黒いゴミ袋のことを、いまでもよく覚えている。

 僕は泣き虫だった。泣くと両親に叱られた。小学校に上がってからもよく泣いて、そのたび周りからは男らしくないという目で見られた。泣かない術を身につけたのは小学校高学年くらいになってからで、それは「あらゆることを斜に構えて捉える」という方法だった。全部のことを冗談めかして、なにも真正面から受け止めようとしなければ泣かないで済んだから、とにかくその技術を磨いた。次第に冗談は上手くなったが、それでも本当に泣かないでいられるようになったのは中学二年生ごろのことだ。

 ぬいぐるみのことをすっかり忘れて育った。一人称を「ぼく」から「オレ」に変え、友達の笑いをとることに腐心しているうち、それが全ての態度に染み付いた。習慣は人を作る。中学を卒業する頃には、やっと生き方を身につけたと思った。

 高校生のとき、うちに新しいぬいぐるみがやってきた。母が買ったぬいぐるみだ。最初は「ぬいぐるみなんて、なぁ」と思っていたのだが、ぬいぐるみは僕を見ていた。僕も見つめ返さずにはいられなかった。そうしているうち、いつのまにか我が家はまたぬいぐるみがたくさん暮らす家になった。

 小さな頃は、かわいいものになりたかった。猫になりたくて、ぬいぐるみになりたくて、女の子になりたかった。ままごとセットを持っていた。どんなに男に近づこうと思っても、虚飾にしかならなかった。ふたたびやってきたぬいぐるみは、僕の過ちを知らなかった。

 僕はいつも、産まれてからずっと、あらゆる意味で男だったけれど、とうとう男にはなれなかった。甘いものを食べていると幸せだ。ビールはまずいし、タバコはクサい。汚れるのは大嫌いで、痛いのはすごく怖い。おしゃべりは大好きで、ときどき要らない事を言う。

 それなのに、泣き方がどうしても思い出せない。



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