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竜王の国 第二話「秘密」

カテゴリ:小説 , 竜王の国  投稿日:2012/10/13

「うわあ、大きい」
 ノラは見たことのない大きさの建築物を見上げて、感嘆のため息を漏らした。
 村を出て二週間、ひたすら街道を歩いて、途中で小さな村や町を通り過ぎながら、とうとう一行はセントの街に辿り着いた。エドナとノラは、あてのある旅をすること自体が初めてで、セントのような都市に来る事も今までにない。
 セントは、国内でも最大級の都市であり、物流、学問、芸術などの中心地として機能している。人口は十万余を擁しており、他の同規模の都市が、国内では王宮のある首都のみである事を考えれば、セントがいかに人々の生活にとって重要な街であるかがわかる。エドナ達も、本人達が知らないだけでこの街を介して流通しているものを行商人から手にした事はあるのだった。道行く人々は色彩豊かな布で作られた衣服を身に纏っていて、それがエドナやノラに、そこが自分たちの住む所とは別世界である事を意識させた。
「ここはなんでもある。食べ物も服も家具も宝飾品も、学校も教会も酒も武器も、暴力も売春も、病気もな」
 エドナにそう言ったトーマスの言葉の通り、街は活気に溢れている。市場通りを歩くと、なかなか前に進めないくらいの人集りで、ノラが迷子にならないようにとエドナはノラの手を強く握っていた。時折、強引な売り込みにエドナが戸惑うと、そのたびにトーマスがエドナに代わって「買わん」と強く断るのだった。
「私とハーマンは宿の確保に行きますが、その足で一度アカデミーの方にも立ち寄ってみます。皆さんは、必需品の確保をお願いします。六の鐘のころに、噴水のある広場で落ち合いましょう」
 ケネスとハーマンは歩く道を変える。「そのみすぼらしい格好をどうにかせんとな」とトーマスは先頭をきって、仕立て屋へ向かった。
 市場から少し離れた細い通りに仕立て屋はあった。モニカが中に入って店主と話をつけ、エドナとノラを手招く。恐る恐る入る二人に、店主が声をかけた。
「本日はどういったお召し物になさいますか」
 しかし、当のエドナとノラは今まで譲り受けた古い服しか着た事がない。選んだ事などなく、何が必要なのかも分からない。まごついていると、入り口の方からトーマスの声がした。
「とにかく丈夫で動きやすい服だ。その上に防具も付けるから、それも踏まえてな」
「プラス、可愛くないとね」
 モニカが付け加えた。トーマスは視線を外にずらして腕を組みつつ壁に寄りかかり、ふんと鼻で息を吐いてからは何も言わなかった。モニカ自身が戦う女だから、自分が口を挟むよりもモニカに決めさせた方が良いだろうと考え、トーマスはそれ以上の口出しを避けたのだった。そうして、殆どモニカが生地と形状を選び、戸惑う二人の服装を決めていった。
 服選びの最中、入り口で待っているトーマスに何者かが耳打ちをして、そのあと二、三の言葉を交わすところを、エドナが横目で見ていた。「あれは誰だろう」という小さな疑問は、モニカの「ちょっと、この生地どう?」という言葉にかき消されたのだった。
「夕刻にはお渡しできるよういたしますので、また後ほどおいでくださいませ」
 店主に見送られながら、四人は次の店に向かう。ノラは人ごみにも慣れたのか、足取り軽く楽しげに、いつもよりも沢山エドナに話しかけた。エドナはそれを嬉しく思いながらも、新しい事が多すぎてノラへの返事もうまくできずにいた。
 一方、宿を確保したケネスとハーマンは、かつてケネスの家庭教師をしていたロイドという学者を訪ねていた。ハーマンを部屋の外に待たせ、ケネスがノックして中に入ると、腰の曲がった老爺が二冊の分厚い本を机の上に広げ、見比べるようにして眺めていた。ロイドの為にアカデミー内に用意された部屋には、本がひしめき所狭しと積まれている。
「お久しぶりです、先生」
 そう声を掛けると、老爺は振り向き長いまつ毛の下でねめつける瞳を鈍く光らせ、少しの間の後に「おお、おお」とそこにいる人物がケネスであると認めたようであった。
「これはケネス様。お懐かしゅうございますな。随分大きくなられた」
「先生は少しお年を召されましたか。相変わらずの読書家のようで」
「古い書物ばかりで新しい知識は入ってきませんがな」
 ホゥホゥ、と笑いともつかない声を上げて、ロイドは椅子に腰掛けた。ケネスの全身をまじまじと見つめて言った。
「その格好で、昔話をしにいらした、というわけではありますまい。私でお力になれますかな」
「お察しくださいましてありがとうございます。単刀直入に申しますが……ちょっとお耳を」
 そう言って、ケネスはロイドの耳元で何事か囁いた。それを聞くや、ロイドは目を見開いて訊ねる。
「本気で仰っているのですか。ひとつ間違えば命を落としかねませんぞ」
「やはり、実在するのですね。先生、行き方をどうか」
 ロイドはムゥ、とひとしきり唸ってから「何の為に」とさらに問いかけた。
「ゴブリンの薬。少女が一口、口にしました。少女には角が生えかけています。その少女の角を取り除きたい」
 ケネスはロイドの目を真っすぐ見て言った。ロイドはそれに返さない。数秒の沈黙の後、ケネスが続けた。
「……では、理由が足りませんか」
 ひとつ咳払いをして、ロイドは机の本を閉じた。そうして、引き出しから紙を取り出し、その上に簡素な地図を書き始めた。
「ケネス様は、人の目をじっと見る癖を直した方がよろしい。隠し事があると知られたくないのであれば」
 紙の上の地図には、この国と、この国から北西に位置する隣国のエセンシル王国、その南にあるサガニの森が書かれた。
 森の北側に接するように点が打たれ、「レムリ」とその傍に添えられた。
「正確な位置は分かりませんがな。この辺りであろう、というのは学者達の間では意見が固まっております。無論、教会の目の届かないところでしている、井戸端学問と言いましょうか。そのようなものですが」
「レムリ……うちにもエセンシルにも属さずにいる町、でしたか。この町に行けばよろしいのですね」
「森の深奥に、ケネス様の求めるものがあるのはまず間違いなかろうかと。詳しいことは、レムリの住人がよく知っているはず。ただ、よそものに簡単に心を許すような者達ではありませんぞ。一筋縄ではいかぬと覚悟なさい」
 言いながら、ロイドはケネスに手書きの地図を渡した。ケネスはそれを折りたたみ、小脇の小物入れにしまった。
「先生がご存じでよかった。事情はあまり外に出したくありませんからね。本当に、ありがとうございます。私は幸運ですね」
 ケネスはにこやかに笑った。ロイドにはその笑顔が幼い頃のケネスと変わらないもののように思えた。ケネスは扉まで歩き、振り向いて言った。
「ちなみに……癖は直しましたよ。ただ、先生の前ではつい昔の感じが出てしまいますね」
 失礼します、と締め、ケネスは部屋を出た。一人残されたロイドは、ケネス少年の瞳の奥を思い出していた。
(繊細なように見えて大胆。ケネス様の方が、先代の血を濃く受け継いでいる。ともあれ、無事に戻りなさいよ)
 
「エドナも俺と同じく弓を使え。既にある程度使えるようだし、少しだが安全な位置で戦闘経験が積めるからな」
 剣、鎧、盾、弓、鎚……様々な武器、防具の飾られる店内で、トーマスは、自分の扱う弓よりもだいぶ小ぶりな弓を手にした。
「とはいえ、俺と全く同じ弓をお前が使う事はできん。腕力が違いすぎるからな。威力や射程距離は劣るが、こちらの方が良いだろう。構えてみろ」
 手渡された弦の無い弓を、エドナは前方に大きく構えた右手で持った。それを見て気がついたトーマスが店主に向かって言った。
「親父! この弓の左構えの物はあるか?」
 はいよ、と店の奥から一本の弓を探し出し、店主はトーマスに手渡した。トーマスがそれをエドナの持つ弓と交換すると、エドナはあらためて右手を前にして構えた。
「どうだ、重いか?」
「いえ……多分、これなら大丈夫だと思います」
 エドナは暫く構えたままでいたが、重量自体はそれまで自分が使っていたものよりほんの少し軽いぐらいで、すぐに自分の一部にできそうな感触さえした。
「今まで使っていたぼろぼろの弓に比べたら、それでも十分、精度や威力の向上は見込める。何より、こいつは名工と誉れ高いフランの工房で作られた物だからな」
 やはり知らぬ名を聞かされ、「そうなんですか」としか返せないエドナ。しかしその手触りの良さは、折り紙がついたことでより強く感じられるのであった。
「あとは、これだな。接近戦用のナイフだ。これは俺のと同じ物で、そこいらのなまくらとは違って、殺傷の為だけに作られた物だ。指を切るなよ」
 ずしりと重く、いびつな形の刃を持つナイフをエドナは手渡された。その状態で、トーマスは店主を呼んだ。
「まずこの二つ。弦と矢もだな。あとは防具を見せてくれ」
「あ、えっと、ノラのは?」
 防具展示場所をモニカと巡っているノラの分の武器の話をなにもしていないと、エドナはトーマスに尋ねた。
「ノラは戦闘に参加させん。今までだって、狩りはお前が一人でやってたんだろう。流石にそれでは足手まといだ」
 これまで、ノラはエドナが狩ってきたものを調理したり、捌いて交換に出したり、といった仕事をして生活を支えてきた。年齢を考えても、ノラを戦闘に参加させるというのは、現実的でなかった。ともに旅をする以上は危険と隣り合わせなのは覚悟しなければならないが、防具があれば十分で、下手に攻撃手段を持つと、かえって危険を招くというのがトーマスの判断だった。
「さて、お前の防具だが、これも動きやすさを主眼において選択する。頭部、胸部などの急所だけは堅い守りにしておくが、他は皮の方が金属製の防具よりも動きを阻害しない。基本的に俺たちは、相手の攻撃を受けない、という戦い方をしなければならん。故に、逃げやすく避けやすく、だ。防具はあくまで、万が一の時に致命傷を免れるためのものと考えろ。また、装備に手間が取られるようではいざという時に役に立たない。そういうのはあの爺さんだけで十分だ」
 話しながらトーマスは防具を選び、エドナに渡す。試着を促され、エドナはそれを身につける。
「……うむ。少しは様になるじゃないか」
 エドナがふと横に目をやると、ヘルムを被ったノラがいた。
「お姉ちゃん、かっこいいね」
 ノラはペタペタと皮の鎧の上からエドナのわき腹を叩く。その後ろから、ノラの為のものと思しき鎧を手に持ったモニカがやってきた。
「ちょっとノラちゃん、途中なんだから。あ、ねぇねぇみんな、面白いのよ。あたしとノラちゃん、服もそうだったけど防具も大きさ同じなの。ノラちゃんて結構大きいのね」
「常識的に考えると、お前が小さいだけだがな」
 モニカの方を見ずにトーマスが言う。わざとらしく眉を顰めてから、モニカはノラに防具を着せた。
 
 夕刻、六の鐘が鳴って、六人は噴水のある広場に集合した。ケネスは、姿がすっかり変わったエドナとノラを見るなり、驚嘆と賞賛の声をあげた。保存食、医療品などを買い溜めた後、エドナ達は仕立て屋に戻りそこで着替えていたし、さらに新品の防具まで身につけていて、それまでのボロ布の様な衣服のときとは比べようもないほど立派な姿であったのだから当然と言えば当然の反応である。ノラは「これ、結構蒸れるかも」と言いながらヘルムを外したが、それがケネスの笑いを誘った。ケネスは「街中では外していて構いませんよ」とノラの頭を軽く撫でてから、みんなを宿に案内した。
 宿の一階は酒場になっており、食事も提供している。部屋に大きな荷物や重い装備を置いてから、酒場で食事をとることになった。酒臭い店内に入ると、既に先客が何組もいて、隣の人の声を聞き逃してしまいそうなくらいに騒々しい。六人は一つのテーブルにつき、トーマスが店の者に適当に料理を運ぶよう伝えて暫く待つと、肉、魚、野菜に火を通した、大味そうな料理が運ばれてきた。
「では、いただきましょう」
 ケネスの言葉にあわせて、六人の食事会が始まった。
 エドナは食べながら、ノラの額を見ていた。あの日から、少しずつ角は伸びている。もう、人差し指の第一関節分ぐらいの大きさにはなっただろうか。ノラの前髪で隠せなくなるまで何日も待たないだろう。あらためて、ノラの悲しい運命、恐るべき怪異が目の前の現実なのだと胸を痛ませた。
「エドナ、大丈夫? 食べられない?」
 モニカの声で、いつの間にか自分の食事の手が止まっている事に気がつく。エドナは「あ、いえ」と慌てて手を動かした。
 時が経過するにつれ、客も増えていった。喧噪は勢いを増し、エドナは、その中の粗野な男達の声に、気分を悪くしていた。記憶の中の「何か」に触れる声質だった。
「ところで、今日アカデミーに立ち寄ったわけですが、期待していた以上の成果が得られました。明日また訪問する必要はないでしょう」
 ケネスがそう報告すると、ハーマンとノラ以外の三人は揃ってケネスの方に視線をやった。トーマスが問うた。
「それはつまり、解決法が見つかったと」
「すみません、そこまでではないんですが、解決法を知っている可能性のある人物のあてがついたと言いましょうか。詳細は後ほどお伝えしますが、今後の方針がかなり具体的な形でたてられそうです」
 大きなため息を吐きながら、エドナは力を抜いた。ノラはモニカに「よかったね」と言われながらまた頭を撫でられている。エドナも同じように撫でようかと思ったが、ノラがまだ一所懸命に食べていたのでやめておいた。
 そこに、一人の酔っ払いが酒を手にやってきた。
「おう、ねえちゃんよ、こっち来て一緒に飲もうや」
 酒臭い息とともに、無精髭が鬱陶しく、モニカは不快感を露にした。
「あん? 冗談でしょ。あんたみたいなオッサンと飲むわけないじゃない。とっとと帰んなさい」
「なんだオメェは。おれぁこっちのねえちゃんに話してんだ。おめぇみてえなガキにゃ用はねえんだよ」
 そう言って酔っ払いはエドナの肩をポンと叩いた。モニカは音を立てて椅子から立ち、酔っ払いの胸ぐらを掴んでドスをきかせた。
「きったない手で触らないでもらえるかなぁ? うちの大事な子が腐っちゃうからさぁ。あとあたしはガキじゃないからね? わかったら自席に戻りなさい」
 突き飛ばすように、酔っ払いを解放する。酔っ払いは、モニカの怒りが伝染したように、乱暴な目つきと態度で応じた。
「あんだと? やんのかコラ、糞ガキが」
「……二度は許さないよ。やってやろうじゃん。表に出なさい。その首、胴体から切り離してあげるから」
 さらに上乗せするように、モニカもヒートアップする。見かねたトーマスがモニカに注意した。
「いい加減にしろモニカ。下らん喧嘩で体力を使ってどうするんだ」
 だが、モニカはそれでは止まらない。トーマスにさえ「あんたは黙ってなさいよ」と悪態をつく。しかし、その傍を通って、ハーマンの巨体が酔っ払いの隣に立った。酔っ払いの首根っこを掴んで、トーマスと目を合わせたかと思うと、ハーマンはそのまま酔っ払いを元々いた席へ連れて行った。トーマスになだめられながら、モニカはやっと座り直した。そして、少しの間不満そうにしていたが、一度大きく頭を掻きむしった後、小さく「ごめん」と言った。
「おねえちゃん、大丈夫?」
 ノラが隣のエドナに尋ねる。それまでモニカにばかり気を向けていたケネスとトーマスは、エドナが青ざめつつ震えていることに気づかなかった。モニカは慌てて謝罪した。
「ケネス様、お見苦しいものをお見せして申し訳ございませんでした。エドナごめん。変なところ見せちゃったね」
 エドナは、小さく首を振って応えた。
「いえ、モニカさんは悪くない……です。すみません、私、ああいう男の人、苦手で。もう大丈夫ですし、モニカさんも気にしないでください」
 大丈夫だという言葉とは裏腹に、エドナの体はその後も暫く震え続けるのだった。
 
「次の目的地をレムリとします。いずれにしても一度エセンシルを経由するのが安全でしょうから、このようなルートで移動しましょう」
 ケネスは地図上に指でコースをなぞった。六人は、男三人の泊まる部屋で明日以降の方針を固めていた。
「レムリ……辺境ですね」
 トーマスは地図上のレムリとナル山脈の位置関係を確認した。サガニの森を南側に沿う街道をセントから通ると、西の先にナル山脈がある。しかし、これから行こうとするルートは一度、サガニの森の北側を通らなければならない。予定の道を通るためには、またセントに戻ってくる必要がある。
「少し遠回りになりますが、時間はたっぷりあります。問題はないでしょう」
「それはいいんですけど……素直に通してくれるでしょうか、エセンシルは」
 モニカは心配そうな声をあげた。隣接するエセンシル王国は、先の戦争での相手国であった。戦争の規模は小さく、戦後処理も終わっており、国交も平時に戻っている。しかし、エセンシルは敗戦国なのだ。この国の王子であるケネスが無造作に訪問することは、新たな火種を生みかねない。またケネスが答えた。
「いざこざは避けたいですね。しかし、エセンシルを経由しなければ、この巨大な森を突っ切ることになります。この距離からすると、一月はかかってもおかしくありません。未だ調査隊もこの森の奥まで入っていない現状を考えると、この距離は少々、長過ぎます」
 その返答にモニカは窮した。それ以上の提案はモニカにはできなかった。だがそれは他の皆も同じだった。ケネスが続けていう。
「ですから、私たちは『王子一行』であることをやめましょう。『王子一行』でない普通の旅人であれば、通行制限などありませんから、摩擦もないはずです」
 さらりと言うケネスを、皆が驚いた表情で見つめた。だが、ただ一人平静を保っていたハーマンが口を開いた。
「であれば……他の者はともかく、ケネス様は偽名を使い、偽の身分証明の書類を作らなければなりませんな」
 国境には両国の警備の兵がいる。自国の者はともかく、エセンシルの者は騙す必要がある。トーマスが繋いだ。
「なら、昔のツテに作らせましょう。この街に、俺の名前を出せば話が通るところがあります」
「決まりですね。ああ、ハーマンと……いえ、この際全員分、お願いしましょう。旅の商人とその護衛という体裁でなんとかなるでしょう」
「わかりました。明日、手配しておきます」
 こうして相談はまとまり、モニカ、エドナ、ノラは女達の部屋に戻る。その際、トーマスがモニカに一言告げた。
「今日あるかもしれん。注意しておけ」
 モニカは黙って頷き、部屋に入った。
 戻るなり、モニカはベッドに身を投げ出した。そして仰向けに「うああ」と唸りをあげた。モニカの動きを不思議がって、エドナはベッドに軽く手をついてみた。モニカが唸っている隣で、エドナは「はぇ?」と素っ頓狂な声を上げた。そしてノラに言った。
「ノラ、ノラ、これ」
 言われたノラが、両手をついて、体重をかけてみる。手は僅かに沈んだ。
「本当だ。これって、あれだよね」
「あれだね」
 言いながら、今度は土台の木をぺたぺたと触る二人。それを訝しがったモニカが、唸りを止めて、首だけ向けて問うた。
「なにやってんの?」
「あ、いえ、ふかふかだなと思って」
 照れたようにエドナは笑った。エドナとノラにとって、ベッドと言えば干し草を敷き詰めた上にシーツを乗せただけのものだったし、村からセントまでの道のりで泊まった宿のベッドも、もっと簡素な木製の土台と薄っぺらな布団だった。こんなに立派でふかふかなベッドを見るのは、二人には初めてのことだ。大きなベッドに三人並ぶようにして横になる。ころんとノラが転がった。一回転して、エドナに当たる。
「いたいよ」
「えへへー、ごめん」
 エドナとノラは、くすくすと笑い合った。
(今のセントや首都じゃ割と普通のベッドでも、この子達にとっては、初めて見るものなのね。都会から離れた距離だけ、時代が遡っていくみたい。エドナ達の家も随分だったし。戦災孤児なんて珍しくないけど、それってほとんど皆、貧しい村の話なのよね)
 横目で見ながら、モニカはエドナとノラの二人を、もうあの村に戻したくないと感じていた。あそこにいても、親がいるわけじゃない。この街で働き口が見つけられて、家が借りられて、この街に暮らせたら、あんなひもじい思いをしながら生きていかなくても良いのに、と思った。
「ねえ、二人ともさ、このまま寝る感じ?」
 それはさておき、モニカには二人に伝えなければならないことがあった。二人が眠りにつく前に、覚悟しておいて欲しい事だった。
「あ、そうですね。ご飯も頂きましたし、そろそろ」
 エドナが答える。モニカは上半身を上げて胡座をかいた。
「あのさ。この街は、防壁があって門番もいる。だから、そう簡単に、動物や魔物が入ってくることはない。この宿も、しっかりした作りだから、普通に眠るには十分過ぎるくらいの条件が整ってる。でも、二人とも覚えておいてね。ケネス様のお供でいる限り、特にこういう街の人目につかないところには、敵が潜んでいるかもしれないってこと」
 ノラは上手く意味が飲み込めないように、目を丸くしている。エドナが訊いた。
「ケネス様を狙う人たちがいる、ってことですよね」
「そう。一国の王子がぶらぶら歩いてたら、色んな理由で狙われて当然よね。だから、ケネス様は必ずハーマンさんをお連れになる。一人で行動することはまずないわ。そして、こんな夜も、全員が眠りにつくタイミングが無いようにしてるの」
 そう言われて、エドナはこの二週間の記憶を遡ってみた。確かに自分やノラが眠るときには、少なくとも誰かが起きていた。それはただ時間差があるのだと思っていたが、それは違ったのだ。
「つまり、見張りね。何かあったら、直ぐに皆を叩き起こす役目。いつもはハーマンさんとトムとあたしが時間交代でやってるんだけど、エドナ、これからはあなたにも加わってほしい。どう?」
 エドナに断る理由は無かった。むしろ、今までそんな考えてみれば当たり前なことにも気づかずにのんきに寝ていたことを恥ずかしく思った。だからエドナは「やらせてください」とお願いした。ノラが「あたしも」と言いかけたところを、モニカが「ノラちゃんは寝なさい。まだ、夜更かしができる年齢じゃないわ」と言って、その申し出をにべもなく断った。
「最初のうちは、何度かあたしと一緒にしましょう。慣れたら一人でも大丈夫ね。それで、なんだけど」
 モニカが少しだけ言いにくそうに、後ろ頭をかいた。
「さっそく今夜、敵襲があるかもしれない、んだって」
「ええっ」
 エドナとノラは声を揃えて驚いた。
「何でそんな事が、分かってるんですか」
 エドナの問いに、しっ、とモニカは人差し指を立てて口に当てた。そして声を殺し、お茶を濁しつつ答える。
「トムの情報網、と言っておくわ。ま、とにかく。そんなわけだから、今夜はちょっと、怖い思いをするかもしれない。本当にごめんなさい。私たちと一緒に行動するってことは、そういうことなのよ。でも、大抵あたし一人でも戦えるから、二人はそんなに心配しなくてもいいけどね」
 二人を怯えさせないように、モニカは口元だけで笑みを作った。不安そうな面持ちで、ノラは先ほど買ってもらった防具をいそいそと装着しはじめた。しかし、それで横になると何とも寝苦しく、やはり外して、困った顔でモニカを見つめる。モニカは苦笑しながら答えた。
「まず、一番大事なのは頭だから、ヘルムは近くに置いておきましょう。すぐにかぶれる作りだからね。後は、部屋の隅っこの手の届かないところで小さくなって待ってれば、大丈夫。隣の部屋にはトムもハーマンさんもいるから、すぐに片付くわ」
 言われた通り、ノラは枕元にヘルムを置いて、布団の中に潜った。「ふかふか。おやすみなさい」と言って、それからは寝息らしきものをたてるばかりだった。エドナは、ノラが怯えたり気を使ったりしているんだと思った。
「じゃあ、エドナ。いつもあたしが最初で、次がトムってことになってるから、少し落ち着いたら行きましょう」
 二人は改めて装備を整え、廊下へ出ていった。
 六人が泊まっている部屋は、二階建ての宿の二階廊下一番奥とその隣の部屋だ。部屋にはガラス細工のはめこまれた小さな窓しかなく、窓側からの敵の侵入は考えられない。廊下につながっている唯一の階段を通らなければ、六人のいる部屋には到達は不可能だ。廊下は三人がすれ違える程度の幅があり、ここが戦場になったとしても、大きな武器でなければ支障なく戦えそうだった。二人は部屋の前に座り込み、時間が経つのを待つことにする。モニカは言った。
「あんまりないと思うけど、宿の客として敵が侵入していることも考えられるからね、部屋の前は離れない方がいいの。だから、ここで待ちましょう」
 虫の鳴く音が遠くからぼんやりと聞こえる。モニカは砂時計を取り出し、床に置いた。砂はゆっくりと下へ落ちていく。宿の中からは、かすかに酒場の笑い声が漏れているようだった。二人はしばらく黙ってそのままいたが、警戒しなければならない緊張感に耐えきれなくなったエドナが、小声で話しかけた。
「来るかもしれない『敵』って、どんな人たちなんですか?」
 ううん、と思案して、モニカは言った。
「その辺の盗賊とか、街の荒っぽい奴とか、いろいろいるわね。いずれにしても、戦いに関してはアマチュアがほとんどだよ」
 アマチュアという言葉で括れるほど、エドナにとって、盗賊や街の荒くれ者は弱い存在ではなかった。エドナは、本当に自分が戦えるのか不安になる。
「まあ、大丈夫よ。なるべくエドナには危害の無いように努めるからさ」
 背中を叩いてくるモニカの軽い態度に、エドナは戦いの臭いを感じ取れなかった。
 酒場からの声も途絶え、砂時計が六回目の砂を全て下に落としきったとき、モニカが「よいしょ」と声をあげつつ立ち上がった。モニカは男達の泊まる部屋に行き、トーマスに声をかける。少しすると装備を整えたトーマスが部屋から出てきた。
「なんだ、エドナもいるのか」
 トーマスの声に、エドナは会釈した。モニカは砂時計をトーマスに渡してから、エドナを促しつつ女部屋に戻る。
「今のところ何も無いわね。このまま朝まで平穏だといいね。じゃあ寝ましょうか」
 防具を外して、薄着になって二人はノラを挟むように、ベッドの左右に分かれて眠りについた。
 
 ぼんやりと見える風景は、かつて住んでいた村だった。父と母と小さな妹と、四人で暮らしている。父はいつものように今日の成果を腰にぶら下げて帰ってきて、エドナを外へ誘い出す。
 父から貰ったお古の弓を携えて、エドナは狩りの練習を父とともにするのだ。父を見ながら練習したら、父とは逆向きに構える癖がついてしまったが、慣れてしまえば問題がなかった。矢が真っすぐ飛んでいけばそれでいい。それに、自分は左利きだから、右利きの父とは逆でちょうど良いとも思った。
「動かない的を相手にするのはそろそろ卒業かな」と父が言うと、エドナは新しい弓を自慢しようと思った。これなら、父にも負けないくらいの強い矢が射てる。綺麗で、新しくて、格好良い。しかもエドナに合わせて、トーマスが選んでくれたのだ。
 だが、その弓がどこにも見つからない。焦って探すエドナを置いて、父は行こうとしている。古い弓を持って急いで追いかけるエドナ。父が振り返って、何事かを話しているのが、走る自分の足音で、エドナには聞き取れなかった。
 
「敵襲! 敵襲!」
 トーマスの声が響き渡る。エドナが飛び起きると、ノラは慌ててヘルムを頭に乗せていた。部屋の中には敵の姿は無い。モニカは既に細身の剣を傍に、防具を身につけ始めている。エドナも同じように、自分の防具を急いで身につけた。トーマスが選んだだけのことはあって、非常時でも素早く装着できる防具だ。しかし、エドナが全て身につけ終わる頃には、モニカは扉から廊下へと出て行くところであった。
 開いた扉から煙が部屋に入ってくる。モニカはエドナを振り返って「部屋の中をよろしく!」と叫んで扉を閉めた。
「この煙は煙幕によるものだ、火事ではないから慌てるなよ!」
 閉じた扉の向こう側からエドナのもとにトーマスの声が届く。部屋の隅では、ノラが言われた通りに小さくなって震えていた。
 低い男の声が何人分も、階段を駆け上る足音とともに聞こえてくる。トーマスはナイフを構え、身を屈めながら階段の方へ一人で歩み寄る。階段を上りきった賊の首めがけて、小型のナイフを投擲した。ナイフは柄と刃の境目を軸に円を描きながら飛び、狙い通りに賊の首に突き刺さる。それを見る前にトーマスは走り出し、その先にいる一人を次の標的にしていた。近接戦闘用のナイフを取り出し、やはり首を掻き切る。鮮血が当たりにまき散らされ、煙に赤い色をつけていく。振り返らずにトーマスは階段に脇から飛びこみ、そこにいた一人の肩にナイフを突き立てながら、その後ろの男の顔面を蹴る。そこから何人かがドミノ倒しになる様を見ながらナイフを引き抜くと、また鮮血の霧が噴いた。
「か、こ、こいつ、速い、強いぞ!」
 焦燥の声が聞こえる。一階を覗き見ると、十人ほどの男達が見えた。後ろからモニカが追いつき、トーマスに先に行くように促した。トーマスは階段から飛んで、一階に降り立つ。警戒する賊どもがトーマスに近づけないでいるなか、トーマスは頭目を探した。
(こいつらは盗賊だろう。品のない奴らばかり雇いやがって、胸くそ悪い。頭は外か? 細かいのはモニカに任せるか。全部で十二、うち出口までの道のりで邪魔なのが五人)
 考えるが早いか、トーマスは駆け出し、出口へ向かう。その途中の五人を、まるで彼らが無抵抗主義者であるかのように、反撃の機会を与えることなく薙ぎ倒し、そのまま外に出た。
 モニカは階段に倒れている数人を剣で軽快に突き刺し、骸にしながら下りて来た。そして一階に到達すると、残った盗賊達に対して挑発的に剣を向けた。
「さっきのやつならまだしも、女にやられっかよ!」
 誰かの怒号に合わせるように、三人が短剣を手にモニカに飛びかかる。モニカは左に身を躱しながら、左側の男の手首を斬り落とした。恐怖と痛みの入り交じった絶叫が聞こえる。
「金に釣られて馬鹿みたいね。まあ、治らない馬鹿なら死んだ方がマシか」
 言いながらモニカは手首のない男の右肩を下から斬る。とめどなく血がそこから噴き出し、男は悶えて倒れた。
「次の方どうぞ……なんつて。ちょっと煙いわね」
「おめぇら! 仮にも王子の護衛だ、弱いはずはねぇ! 取り囲め!」
 ガタイのいい一人の声に応じて、四人が壁際のモニカを扇形に取り囲んだ。四人を相手にすることはモニカにとってなんでもなかったが、残った二人が階段を駆け上っていってしまった。
(あっ……やば)
 いつもの調子でやってしまったとモニカは内心酷く焦ったが、後の祭りだった。
 しばらく遠くで聞こえていたはずの声が、また近づくのが聞こえる。エドナは、緩めかかった緊張をまた取り戻していた。
(私はここでノラを守る。それだけできれば大丈夫)
 自分の責務を確かめる。そうして、トーマスと同じ鋭いナイフを左手に構え、待った。
 突然乱暴に扉が開け放たれた。一人の男がエドナの前に立つ。汚らしい肌に、下品な顔つき。エドナは顔をしかめる。恐らく、盗賊とか、山賊とかの類いだろうと考えた。しかし、エドナは相手の出方を窺って、手を出せないでいた。
「おっとぉ、部屋ぁ、間違ったかな。女二人……や、一人はガキんちょ。へへへ、まあいいやな。勘違いから始まる関係もあるってな。一期一会、大事にしようや」
 男が言いながらにじり寄る。エドナは後ずさった。一歩踏み込めば互いに致命傷を負いそうな間の中で、更に男は声を掛ける。
「そう逃げんなよ、抵抗しなきゃよ、命まではとらねえよ。そんな危なっかしいもの下ろせよ。よく見りゃあ、おめぇなかなか『べっぴん』じゃねえか。そっちの嬢ちゃんも一緒に、俺たちとい〜いことしようぜ、なぁ」
 下品な顔が更に醜く歪む。エドナは、その顔つきに見覚えがあった。いや、正確には「そういう顔つき」に見覚えがあっただけなのだが、その顔と、言葉が同時にエドナの脳に辿り着いた瞬間、エドナはある風景と、そこで聞こえた音を思い出していた。
(二人とも小せえガキだな、どうする)
(売っちまえばいいじゃねぇか、こういうのはガキの方が高く売れる)
(でもその前に、俺らで楽しまねぇか?)
(お前の趣味に文句言うわけじゃねえが、値段が落ちる。やめとけ)
(いいじゃねえか、おっきい方、俺もーらい)
 そこはボロの小屋。小さな小さなノラをかばって、一人で前に立った。相手は男三人、そのうちのとんがった鼻をした男が近づいてエドナの手を掴んだ。
 エドナの意識が爆ぜる。そして、幻覚の様な脳内の風景が吹き飛んで、現実の世界に戻った。だが、エドナの中では感情が湧き上がり、とめどなく溢れ出していた。男が何かを言葉を発していたが、エドナの耳には届かない。突然、獣になったかのように声を張り上げ、エドナは一歩を踏み出していた。男の考えていたリズムとは全く異質のタイミングで懐に飛び込んだため、男は対処が間に合わなかった。とはいえ、エドナが何かを狙っていたわけではない。その証拠に、ナイフを出せばその場で男は絶命していたにも拘らず、結果的にただの体当たりになったのだ。
 だが、男はエドナの体重を受け止めきれずに背中から倒れた。強かうち付け、呼吸を数秒間、強制的に止められた男の目には、エドナが構えたナイフが映っていた。そして、抵抗する間もなく、腹を突き刺される。
「死ね! 死ね! 殺してやる!」
 エドナは言葉を繰り返しながら、ナイフを男の胸や腹に繰り返し突き立てた。男が既に命を失ってからも、エドナの手は休まらなかった。そして、エドナの言葉も止まらない。ノラはその光景に、怖気が走った。先ほどまでとは別の理由で、なお部屋の隅に震えて縮こまっていなければならなかった。
 暫くして、モニカが二階に戻ってくる。モニカが扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
 一面が血の海となり、その海面に浮かぶように、腹がぐちゃぐちゃの、ひき肉の様にされた死体が一つあった。そしてその脇に、へたり込んでうめき声を上げるエドナと、落ちたナイフが見える。
「エドナ、エドナ大丈夫!?」
 慌ててモニカは部屋に足を踏み入れた。モニカはエドナの側に膝をたてて、顔を覗き込んだ。虚ろな瞳から、涙が垂れ流されていた。
 モニカはエドナの体を確認したが、目立った外傷は見当たらなかった。何度もエドナに呼びかける。だが、トーマスが戻って来ても、隣の部屋からケネスとハーマンが様子を見に来ても、エドナにほとんど反応は無かった。
「何人かは逃げていきましたが、リーダーの首はとりました。暫くは大丈夫でしょう」
 トーマスがケネスにそう報告する。ケネスが心配そうに、モニカに声をかけた。
「エドナさんに、なにかありましたか」
「外傷は無いと思います。恐らく精神的なものだと……ノラちゃんのこともありますから、部屋を代えてもらえるといいんですけど……」
 それを聞いて、ケネスは部屋の奥へと入っていった。怯えるノラの頭の高さに合わせてしゃがみ込み、「もう大丈夫。怖い思いをしましたね」と言いながらノラを立たせた。そのまま手を引いて、ノラを部屋の外まで連れ出した。
「どうするんだ」
 トーマスの漠然とした問いに、モニカは答える。
「エドナのことは、私に任せて。大丈夫、皆は寝てていいわよ」
 そうは言ったものの、モニカにも、エドナに何が起こったのかは分からなかった。
 震え上がりながら自室に閉じこもっていた宿の主人を引っ張りだして、事が済んだこと、部屋をもう一つ用意して欲しいこと、それから、湯浴みの準備をして欲しいことをトーマスは伝えた。ノラはケネス達の部屋で寝ることとし、モニカとエドナは血を洗い流す為に浴室へと向かった。
 また、これもエドナにとっては初めての経験としての湯浴みであったのだが、今のエドナには何の感慨も無かった。モニカは、エドナに湯をかけて、介抱するように優しく肌に付いた血を手でこすり落としていく。
「……ありがとう、ございます」
 エドナは、俯いたまま礼を述べた。モニカはエドナの髪の毛をくしゃりと摘んで、「いいのよ」と言った。モニカは、自分こそ謝らなくてはいけないと思っていた。だが、その事を今謝れば、エドナの辛い思いを刺激することになる。だから、謝らなかった。
「お湯で温かいの、初めてでしょ」
 エドナは、返事をしなかった。だが、首をそっと上げ、エドナはモニカの目を見、自分から言葉を紡いだ。
「昔、嫌なことが、あったんです。それ、思い出して」
 そこまで言って、またエドナは俯いて、しゃっくりの様な声を上げて泣いた。モニカは手を休め、エドナの肩をぎゅっと抱きしめ、肩で涙を受け止めた。そこからの二人に言葉は無かった。



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